岩佐家

渡る世間は鬼ばかり


 
岩佐くんの家におばあさん(母方のね)がやってきたのは、三年前。おじいさんが亡くなり、おばあさんがひとりぼっちになってからです。

 おばあさんは、若い時より商売上手で小金と土地を結構持っていました。そして、おじいさんが亡くなったとき、奴はひょっこり現れたのです。二十年間消息不明だった長男です。長男の目当てはもちろん遺産です。

 おばあさんには、長女、次女、長男の三人の子供がいました。長男は酒癖が悪く、若いときから職を転々とし、トラブルも数々起こしてはおばあさんに尻拭いをさせる有様でした。さすがに、居心地が悪かったのでしょう。結婚と同時に行方知らずとなっていました。

 その長男が何処で聞きつけたのか、おじいさんの葬式に現れたのです。長男は焼香を済ますや否や、酒をあおり、遺産の話を始めたのです。さすがに、おばあさん、岩佐くんのお母さん、その妹は、唖然としましたが、結局おじいさんの遺産の半分はおばあさん、残りを三等分したものが兄弟に分け与えられました。長男はお金をもらうと、また姿をくらましたのです。

 そして岩佐くんの家がおばあさんを引き取り、平和な日々が流れていた矢先、またもや長男が現れたのです。
「母さんの調子が悪くなったらいつでも言うてや。近くに引越ししてきたさかい。」と尺八片手に一言。どうやら、長男はもらった相続分だけでは物足りず、おばあさんの持っているお金を無心するつもりの様子。

 そして、事有るごとにおばあさんを自分のボロアパートに引っ張り込み、ご機嫌を伺っているようでした。おばあさんにとっては、子供は子供です。出来の悪い子ほどかわいいのでしょう。喜んでお邪魔している様子でした。その回数がどんどん増え、とまる日数がどんどん延びるにしたがって、岩佐くんのお母さん、その妹も面白くない様子をあらわにし始めました。当然です。今までおばあさんの面倒を見てきたのは自分たちなのですから。

 画して、おばあさん争奪戦争の火蓋が切って落とされたのです・・・・。


 長男の人となり


長男の目撃証言

(B医院勤務A子さん)
「以前はよく来てたよ。酒の飲みすぎでしょう。息子に連れられて、苦しい苦しいって。でも、治療費払おうとしないから、先生がもう来るなって怒鳴ったらそれっきり。」

(B医院近所の主婦C子さん)
「よく、尺八持ってふらふらしているわよ。あっ、それからB医院の前で、ヤブ医者とか何とか叫んでいるのも何度か見たことあるわ。」

(B医院常連のおばあさんD子さん)
「私に向かって、ウバァウバァって。赤ちゃんあやすみたいに。あれは気味悪かったわね。」


結び

以前、私が岩佐家にお邪魔したとき、おばあさんを見かけました。おばあさんは蟹を食べていました。
その姿は子供の魂を喰らう餓鬼そのものでした。

案外、そもそものトラブルの源は、おばあさんそのものかもしれません。

そして、おばあさんは今日も子供たちの家を転々とするのでした。人の気も知れず・・・。

永遠につづく